約束通り、アメリカが世界に誇る超名門士官学校、West Point卒の元軍人のブラッド君の話。
ブラッド君はアメリカ中西部ミシガン州出身のステレオタイプにふさわしく、地に足ついた物腰のナイスガイで、同じOceanに属してはいたものの今まで話す機会がなかったんだが、たまたま空っぽのスタディルームで鉢あわせてつい長話をしてしまった。その流れで私が「あなたは非常に面白いのでブログにしていいか」と許可を取ったら盛大に面白がってくれたので、彼が話してくれたWest Pointとミリタリーと人生について紹介する。
そもそも、アメリカの大学は一般的には私立か州立しかない。前者の最も有名な例はハーバード、後者はUCバークレーか。国レベル、というか彼らの言語でいうと「連邦」レベルの学校というのが、Military Academyと総称される士官学校なのだ。大学の位置づけにある。全体的には。もちろん、かなり選抜は厳しく、体力的にも学力的にも抜きん出た存在でなければ入学することはできない。そして、半分くらいしか卒業もできないらしい。ここはどこの士官学校も同じだが・・・。しかも、ブラッド君が入った年は、9.11の直後で、国防意識、愛国意識絶好調。最も倍率が高い年だったという。
ではなぜ、彼はWest Pointに進学したのか。
「君と同じような反骨精神が強いキャラだったからさ」と彼は笑った。曰く、ブラッド君の家は普通よりちょっと貧しかった。そこは詳しく聞かなかったが、彼の立ち居振る舞いの整い具合からして、単純に収入があまり高くない、普通の家庭とかなんじゃないのかなと勝手に推察してみた。でも、ブラッド君は頑張り屋さんなので成績はいつもよかった。ミシガン人は地元意識が強いので、頭のいい子は地元州が全国に誇るミシガン大学にみんな憧れる(アメリカの制度的に、州内居住者の州立大学学費は大幅に割り引かれるから、という理由もある)。
しかし、彼の高校の担任教師は彼の家庭の貧しさを指して、「君ではミシガン大学に行けない。諦めたまえ」と言った。
そこが彼の反骨精神に火をつけて(「家庭環境など、自分が変えられないことを理由にノーと言われるのが嫌い」なので)、「だったらミシガン大学なんか知るか。もっといいところ行ってやる」と、彼は燃えた。
「そうなると、自然と選択肢が狭くなるからさ。笑。」
ミシガン大学は全国でも上位に入る大学だからだ。収入が低いとはいえ、彼は白人男性なので学校が出す奨学金も得にくい。Ivy Leagueとかは門が狭すぎる。
ならば、と。彼は士官学校に目をつけた。ものすごく狭き門には違いないが(10倍くらい)、在学中も陸軍士官候補生の扱いなので、学費どころか、給料が出る。いわば、マイナス学費。制服代などに消える雀の涙額らしいが、マイナスな分だけすごいと思う。
というわけで、ブラッド君はWest Pointに挑戦した。ただの大学ではなく、合格と入学は軍隊入隊をも意味するので、受験過程にアメリカの上院議員か副大統領の推薦を得なければならない。別に議員とお友達である必要はないらしく儀式的なものらしいが、入学のイニシエーション度というかハードルが半端ない。そこで見事合格しても、卒業までに半分くらいはついていけなくて退学するか放校処分になる。
例えば、かなり厳正に守られているという原則的な規律に、以下のものがある。以下を破ったら退学なのだ。
1.虚言を弄すこと、2.不正を為すこと、3.窃盗を行うこと、及び4.上記を許容することを禁ず。
つまり、例えばCadetと呼ばれる候補生(在校生)Aが試験で不正をした場合、そのルームメイトのBがそれを知っていて報告せず見逃した場合、発覚したらAは2条、Bは4条が適用されふたりとも退学になっちゃうということらしい。そして、こういうことの発生率も相当高いとか。卒業したら米国軍隊を代表して士官として相当の重責を負う役目を与えられるので、厳正な倫理観がないと務まらないからなのだとか。すごい世界である。
けれど私は茶々をいれずには居られなかった。
「ちょっと待った。試験で不正を働くとかならまだわかる。が、虚言を弄すとはどういうことだ。嘘吐いたことない人間なんかいないぞ。例えば、WestPointには女の子もいるだろ。」
ブ「いるね」
私「なんか良い感じになるじゃん」
ブ「運が良ければなるね」
私「で、軍人とはいえ女の子なので『あたし太ったかなあ?』って聞いてきたりするじゃん。そこで「たしかに2ポンドくらい行ったんじゃない?」って正直に言わないと退学になるわけ?」
ブ「いやそれは(笑)。そういうことじゃなくてですね、嘘付いたりすることで本来自分が得るべきでない利益を得たかどうかが審議対象になるのであり・・・」
私「でも、「好きな女の子にキレられることを回避」するという利益を得ているぜ」
ブ「%$#@%^*(!!!!」
とりあえず、はっきりしているのは私のこんなくだらんツッコミにも笑いながら答えてくれるナイスガイだということだ。
ところで、士官学校の性質上、女性候補生は少ないんだが、そこら辺は色々どうなっているんだろうか。
前に別のWestPoint卒の友達であるジョン氏に聞いてみたところ、「可愛くない」ときっぱりひとこと帰ってきたんだが。
話は思ったより壮絶だった。男女比はだいたい、9対1で安定している。そのうち、女子の25%はレズビアンなので相手にされない(なんかわかる気がする)。この残りの人口比にして7.5%の女子の中の見た目がちょっと綺麗めな子のモテ具合は凄まじいものがあるらしい。その原因は言わずもがな。さらにいろいろ拍車をかけている要素としては、普通理系学部には男が多いもんだが、理系研究者の群れとマッチョでテストステロンあふれるAlpha Maleの群れでは競争の仕方とアプローチの仕方が全然違うという事実。頭脳は同じでも、理系Nerd(ヲタ)と比べて「リーダーシップ」と「積極性」と「テストステロン」で選ばれし者な彼らが少数女子を取り合う様は妄想するだに結構すごい。実際、カップルで卒業し、結婚し(卒業するまでは結婚できないので卒業したらすぐ結婚が普通)、士官エリート家庭を築いていたりする者がちらほら。
ちなみに彼自身は普通にカッコイイのだが、彼女は外部で見つけたらしい(笑)。
そして私が気になったのは軍服ぽい制服のデザイン。幼い頃から人民解放軍のカーキコートに慣れ親しんでいるため、軍服ファッションにはどうしても惹かれるんだが、ブラッド君にしてみれば、
「うちの制服ダサくて着心地悪い><」
のだそうだ。
普段着はこんなウールなんだが、実にごわごわで気持ちよくないらしい。私「では、こっそり同じデザインのカシミヤを特注して制服だと偽って着たら『不正な着心地の良さを手に入れた』ってことでやっぱり怒られるんでしょうか」ブ「www怒られるけど違う理由だと思うww」
そんなナイスガイのブラッド君は、パイロットになりたかったけれど視力の関係でなれず、代わりに空軍の特殊部隊で活躍していた。けれどいろいろ迷って結局MBAに入り、テクノロジー系の会社に勤めたいと思っているんだとか。業種を問わず、きっといいボスになりそうだから、ぜひ頑張って欲しい。
今更だが、Indian Ocean約70人弱の中、彼のように元軍人さんはざっと5人もいる。West Point x 2, Naval Academy x 1, Marine x 1, Army x 1の取り合わせだ。全員が士官学校卒ではなく、大学のROTCという士官プログラムから入る者もいる。そのプログラムはDukeでも有名で、人によっては学費が全額免除になるのだ。卒業後のServiceと引換に。
ちなみにもう一人のWest Point出身のジョン氏とも仲がよく、お互いの家でディナーパーティーをやる間柄。
他でも、なんかナイスガイだなと思った人たちが、実はミリ系というパターンの出会いが最近多い。MBAに来ないと絶対出来なかったタイプの友達なので(たぶん)、むちゃくちゃ違うバックグラウンドを超えて仲良くなるのは楽しいと実感する今日この頃。
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