色々節目である。20代も後半を迎えた。婚約した。そして、退職後から思い切りはじけてアジア地域で遊び呆けていた2ヶ月も過ぎ、今や丸2日かけて3年近く住んでいたアトランタのアパートメントからその年月にふさわしく累積した衣類不要品その他をダンボール大にして12箱(!)に詰め込んでいると必然的にいろいろ感傷的になるのはやはり別れを告げなきゃいけないハウスメイトがScott君という他ではありえないほどの菩薩のような同居人であるからかもしれない。
そんな彼も今年の夏にナタリーポートマン似の長年の恋人(ちなみに偏食王とは違うタイプだが、彼女もまたユダヤ人である!)と婚約し、アジア料理を毎日のように作っていた私と決別しなきゃいけないこの時期はヘタしたら私よりも感傷的になっているのかもしれない。お別れと婚約祝いに、ハンズで買ったチョコレートフォンデュ鍋をあげたらやたらと喜んでくれた。
さて、苦痛に満ちているはずのダンボール衣類づめ作業を飛躍的に楽しくしてくれたのが、Audible.comでダウンロードした『ハンガー・ゲーム』のオーディオブックである。
Audible.com自体はAmazonに勧められてテキトーに契約したら、毎月使用料が取られてるのにろくすっぽオーディオブックを聞かないまま数ヶ月過ぎ(ジムみたいだ…)、これはやばいとアカウント停止を申し入れたらインド人のオペレーターがあっさり快諾してくれたので良心的なサービスかと思われる。
『ハンガー・ゲーム』であるが、そういえば映画上映中だ。『バトル・ロワイアル』やキングの『死のロングウォーク』を思わせる、要するにディストピア・サバイバルもので、ストーリーは手短にいうと、経済的に豊かな支配者層が堂々と搾取しまくっている被支配者層の反乱士気をくじくために毎年厳重に隔離された12個ある被支配者層の各地区(しかも地区ナンバーが若いほど豊かで支配者層よりらしい)から少年少女を徴収して、最後のひとりになるまで殺し合わせるお祭り(その模様はスーパーボウルのように楽しいイベントとして全国中継される)、ハンガー・ゲームに妹をかばって出ることになってしまった、生活水準最下層の12地区出身なだけにサバイバル能力Gクラスの少女がひたすら頑張る話である。
トレイラーはこちら。
ディストピア系のフィクションは『1984』をはじめとしていろいろあるけれど、毎度毎度、政府は「誰得?」な体制を敷いていて読者は腹立ちを覚えるものなんだが、『ハンガー・ゲーム』の中のディストピア支配者層は腹立ちを通り越して、不謹慎ながら非常にコミカルである。スーパーボウル並と例えたが、殺し合いゲームに参加する少年少女は、それぞれに支配者層のファンやスポンサーがついたりする。立ち見の観客たちは、贔屓の参加者を応援し、ゲーム中に手助けし、無念に死亡すれば涙を流す。支配者層の人々はメイクが変なだけで、被支配者層と変わらぬ感情を持つことが強調されている。
つまり、他人の不幸や恋愛やドラマやプライバシーを編集し盛り上げるメディアの存在と、それを鑑賞するのが大好きな、普通の人間たちである支配者層の大衆が、そのままスーパーボウルやリアリティショー好きの米メディアとその消費者である米国民を盛大に皮肉っているのだ。ディストピア云々はただの極論で、作者は政府や体制よりメディアと大衆をいじくって遊びたかったんだろうなと理解。主人公の少女はそんな支配者層の人々を、どこか「ばかじゃないの」という目線で観察しているとこからも納得。
まず映画は相当原作に忠実ないい作りだが、主人公は表情の変化が乏しいキャラなので、行間を埋める意味で本もおすすめだ。
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