ビーフシチュー・ディナーと教育について

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ビーフシチュー・ディナーと教育についてall over the place


四連休の合間で宿題が多いのは仕方ないにしろ、ちょっとSocialなこともやらねばとビーフシチューディナーを企画。

スロークッカー(こちらではCrockpotという)という常時電気とろ火の土鍋のような装置でサイコロ状の牛肉をワインで6時間以上煮込んで玉ねぎ人参セロリを2時間目くらいに突っ込むとどんなに手を抜いてもそれなりの味になる上に来客の見栄えがいいということで、ここに来てからは「一晩煮込んだビーフシチューあるから食べに来てよ」が有効な誘い文句となっている。Sloan生は多忙なので、サンドイッチ屋が食堂と化している人も少なくなく、家庭料理の凝った雰囲気のやつに対する需要は高い。

なので、「すごく面白いと認定しているのにゆっくり話す時間がいつも取れない人たち」を意識的に呼んで、ワイン飲んでシチュー食してチョコつまんで仲良くなろうということを繰り返してみようかと思う。

で、早速Admit weekendで知り合い、偏食王と故郷が同じで意気投合したレイチェル女史を招いてみた。彼女は超名門リベラルアーツ(別名ヲタともいう)のSwarthmore卒で、Sloan来る前は「低収入家庭だけれども有望な高校生を大学にちゃんと入れるNPO」で働いていたという、私のシナプスを無駄に刺激しまくる人でありながら、いつも教育とかの話がいいところに差し掛かると邪魔が入って歯がゆい思いをしていた。

私は最近はあんましだけれども、ここで散々教育について考えていることを書いていて、卒業後の進路にちょっとその要素も取り入れたいと思っている。もっと言うと、教育系のコンサルかスタートアップにJoinするかマジでStartしちゃうか、っていうところまで考えている。けれど、私は本物の子供に触った経験があまりない。他のことに関してはすごく「とりあえずやってみよう」的な実践思考なのに、教育に関しては関心がありまくるのに机上の空論をこねくり回すのが好き。だってまあ、「論」に関しては自分がほんの子供(8歳くらいだったかな?)の頃に三石由紀子氏の早期教育論を読んだのが原点みたいなテキトーなものなので実践は自分自身、あとは全部理論(ただしActionableな)が基本形。子育てシミュレーションもそんなノリで書いたものだし。

それでも、教育を語る際に私の特徴(とレイチェル女史と話していて気付かされたポイント)がいくつかある。

私は、現場で子供に触ったことがないせいか、大ナタを振るう過激系の提案が多いらしい(KIPPが成功しているのは、別に算数を教えるのに低所得者家庭の子供のほうが普通の子供の2倍時間がかかるとかではなく、究極的には子供を家庭や悪い友達から引き離し、その時間を独占できているところにある。だから教育格差解消の次のステップは高校まで全寮制だ!とか)。でも、それは非現実的というよりは、やれFundingがないの、Authorityがわかってないだの業界にどっぷり浸かった人たちには面白く聞こえるらしい。

レイチェル女史は組織論のプロジェクトでも「高レベルの教育を低所得者層の4-8年生に無償で提供し、名門私立高校のスカラシップを取りに行かせる女子校」を担当しているのだが(ちょっとうらやましい)、最近その組織は「同じような団体が同じような子供をターゲットにしていて、名門私立高校のスカラシップ枠競争が激しくなっている」のが悩みなんだとか。

私「悩む意味がわからない。自分のとこを拡張して名門私立高校にしなよ」

レイチェル女史「そうきたか(笑)」

私「だって、名門私立高校に受からせるだけのリソースとスキルがあるなら、それを大学行かすのに役立てるのはそんな難しくないでしょうが。スカラシップ狙いというのはあまりに道が狭くないか?」

レイチェル女史「でもね、現場では大学出たての教育に興味ある若者をボランティアに近い給料で雇っていて、子供が大きくなりすぎると先生のマネジメントスキルが追いつかない可能性があるのよ」

私「(ぽかーん)なんだそれは・・・。ああ、そうか。アメ人のクラスルームでは基本的に授業面白いか教師が権威を超保ってないと誰も話し聞かないのか!」

レイチェル女史「そう、それそれ笑」

みたいなノリで。

あと、レイチェル女史から聞いた考えさせられる現場の実情。特に低所得者層のちょっとモチベがあるティーンエージャーを何人も担当していた彼女から来る話だと重いんだが、今までたくさんの「頭はいいけど家庭環境と近所環境に恵まれていない子」で、「成績が上がってきた」「大学のスカラシップの可能性がある」「SATでいいスコアを取った」など、ちょっとメインストリームの指標で成功しかけて、こちらが「その調子だ!これからも頑張れ!」と励ます段階になると、必ず何か物理法則のように反動的に授業をサボったり、何か万引きしたりする子が多いらしい。

レイチェル女史「なんかもう、メインストリームの成功ていうのが、私達にとっては家族や友達からも推奨されてきたことで、当たり前のように追い求めていたことだけれど、彼らにとってはそうじゃない。親兄弟友達と全く違う生き方を追求することは、ティーンエージャーにとってはものすごくプレッシャーになるの。私達が小さい頃からいい成績を取ったら褒められ、そのまま言われもしないのに今コンサルとか目指しているのと同じような目に見えない力が働いているかのように

私の直感はある意味正しかったわけだが、同時にどこか絶望的でもある。我々自身が、そういう目に見えぬプレッシャーの強さを毎日実感しているからだ。方向性は違っても、人間である以上、自分とアイデンティティを共有する者が言語化したりしなかったりすることで敷いたレールから抜け出すのはものすごく難しいのは最近の自分の進路選択の情けなさでよくわかっている。

ルーク氏にも最近言われたしなあ。「君の足元、ほとんど三歩先に黄金が転がっているのに、レールの先にないからって見てみぬふりするのかい?」とかそんなことを。

このレールとか広く言えば「文脈」ってやつは本当に人の人生を決めるのに厄介なのにAuthorityはわかっていない。

たとえば話は全然変わるが不良少年少女(心理学的にはConduct Disorderとかいう診断名がついている。アメリカの犯罪の50%を犯している2%の人口のこと)を更生させるのに少年院や鑑別所はさらに強い不良ネットワークが構築されるため全くの逆効果で、軍隊式ブートキャンプは家に戻されれば元の黙阿弥(アメリカの有名な犯罪者で「軍隊に居たときは普通だった」みたいなの結構いた気がする)。

で、唯一更生でものすごく効いたのが「専属・怖いおじさん」。例えば家で寝てたり街でぶらぶらしたりするのをとっ捕まえて学校に行かせたり、宿題やってるか監督したり、街にふらふら出かけていろいろ吸ったりするのを取り上げる、「怖いおじさん」。彼らは不良リスクのある少年少女の生きる文脈そのものに介入し、Disruptしているから、ものすごく効果が高い。日本で大人気のカリスマ教師漫画でも大人気のモデルだが(GTOとか金八とか)人件費が高く付くためスケールが難しい。ならスケールが効く全寮制の帰省禁止モデルでも作ればいいって話だが、そこまでやるのはいくらなんでも乱暴なんだよな。

でも、レール意識が強いぶん、私は教育を受ける過程で、やっぱり出口というものの意識が強いとこれまたレイチェル女史に指摘された。

私「Teach for Americaの効果がある意味限定されているのも、やっぱりそれだけじゃ大学には連れて行ってくれないからだ。いい先生が2年くらい居たって、その次の担任や次の学校がしょうもなかったらImpactはゼロに近いわけだし。アメリカの教育格差問題の大半は、「親の代わりに大学に連れてってくれる機関」を設ければなんとかなる気がする」

レイチェル女史は、Sloanに来る前まさにそんなところで働いていたわけなんだが、リソースの制約でいろいろ大変だったらしい。

そんな大盛り上がりのディナーだったので、またやろうと思います。

さて、KIPPとはなんぞや?って人はこのビデオを見るべし。

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